冬になると、毎年のようにニュースで耳にする「ヒートショック」。
その危険性は、決して他人事ではありません。
実はヒートショックによる入浴中の急死者数は、交通事故による死亡者数を大きく上回ると推計されています。
例えば、警察庁が公表している交通事故死者数は年間およそ3,000人前後です。
一方、消費者庁や関連機関の推計では、入浴中の急死者数は年間約19,000人にのぼるとされています。
すべてがヒートショックと断定されるわけではありませんが、その多くが急激な温度変化による血圧変動、いわゆるヒートショックが関与していると考えられています。
弊社は住宅建築のプロとして、この問題は「住まいの断熱性能」と密接に関係していると強く感じています。
ヒートショックは他人事ではありません
少し筆者の話をさせてください。
今年の冬。つい最近です。
友人のお母様が心不全で倒れ、60代というまだこれからという歳で帰らぬ人となりました。
筆者もお世話になった方で、とても明るく元気で優しい人でした。
雪深い地域に家があり、冬は普段生活する居間だけが暖かく、1歩廊下に出れば足元がヒヤリとする、そんな古いお家にお住まいでした。
早朝の寒い時間帯に、お手洗いに向かう際に倒れたとのことで、状況をお聞きする限りヒートショックの可能性が高いと思われます。
「雪深い山形でも、家が暖かかったら、防げたのではないか…」
そう思わずにいられません。
「これまで、寒い家でも生活できていた」
「慣れているから我慢できる」
「生まれた時からずっとこの生活だから大丈夫」
そう思う方が山形には沢山いらっしゃるでしょう。
実際筆者も、ヒートショックの現実を知る前まではそう思う時もありました。
しかし、我慢できるからといって安全というわけではないのです。
住まいは、本当の意味で安全・安心・快適であるべきです。
家の性能を高くすることは、自分の、そして身内や親しい人の命を守ることにも繋がるからです。
私たち工務店は、このような悲しく悔しい出来事を無くすためにも、基本性能が高い家づくりをしっかりと確実にしていく使命がある。
改めて思いを強くしました。
ヒートショックが起きやすい住まいの条件とは
ヒートショックは、急激な温度変化によって血圧が乱高下することで起こります。
暖かいリビングから寒い脱衣室へ移動し、さらに熱い湯船に浸かる。
この短時間の温度差が、身体に大きな負担を与えるのです。
特に注意が必要なのは、以下のような住宅環境です。
・断熱性能が低く、廊下や脱衣室、トイレが極端に寒い家。
・暖房が居室のみで、家全体が暖まっていない家。
・築年数が古く、無断熱または断熱が十分でない家。
このような住宅では、室温差が10℃から20℃以上になることも珍しくありません。
冬場のリビングが22℃でも、脱衣室が5℃や0℃というケースもよくあることです。
この温度差が、血圧の急上昇・急降下を引き起こし、失神や心筋梗塞、脳梗塞へとつながるのです。
特にシニア世代は、血管が硬くなりやすく、血圧調整機能も低下しています。
そのため、若い世代よりもはるかに危険度が高まります。
「まだ元気だから大丈夫」という油断が、最も危険なのです。

家の断熱性能が命を守る理由
断熱性能の高い家は、家全体の温度差が小さくなります。リビングだけが暖かいのではなく、廊下や脱衣室、トイレも含めて室温を安定させることが可能です。
高気密・高断熱住宅では、暖房効率が高いため、少ないエネルギーで家全体を穏やかに暖めることができます。
室温が一定に保たれれば、血圧の急変動は起こりにくくなります。
ヒートショック対策は「暖房器具を増やすこと」ではなく、「家の性能を上げること」が本質です。
新築を検討されている方には、断熱等級6以上を目指す設計を強く推奨します。
UA値やC値を明確に設定し、数値で性能を担保することが重要です。見た目や間取り以上に、命に関わる性能こそ優先されるべきだと、私は考えています。
リフォーム・リノベーションでも改善できる
既存住宅でも、ヒートショックのリスクは確実に下げることができます。重要なのは「部分的に暖める」発想から、「温度差をなくす」発想へ切り替えることです。
窓の断熱改修
まず効果が大きいのは、窓の断熱改修です。冬の熱損失の多くは窓から発生しています。内窓の設置や高性能サッシへの交換によって、室温低下を抑え、脱衣室やトイレの冷え込みを大きく改善できます。
浴室の改修
浴室そのものの断熱性能を高めることも非常に重要です。
ユニットバスへの交換時に高断熱仕様を選択すれば、壁・床・天井の断熱強化により室温の下がり方が大きく変わります。
加えて、断熱浴槽を採用することでお湯の温度低下も緩やかになり、追い焚き回数が減ることで光熱費の削減にもつながります。
脱衣・洗面所の断熱改修
脱衣室や洗面室の床・壁に断熱材を追加する改修も有効です。
床下からの冷気が強い住宅では、床下断熱の補強や気流止め施工を行うことで足元の冷えを抑えられます。これは体感温度の改善に直結します。
間取り変更
さらに、家全体の温度ムラを減らすために、間取り変更を伴うリノベーションも有効です。
例えば、寒い廊下をなくし、リビングを中心に回遊できる動線へ変更することで、非暖房空間を減らすことができます。断熱改修とあわせて、空間構成そのものを見直すことが理想です。
高気密化
隙間が多い住宅では、いくら暖房しても冷気が入り込みます。気密処理を適切に行うことで、暖房効率が上がり、室温が安定します。
ヒートショック対策は断熱と気密が両輪です。
また、全館空調の導入も、既存住宅の状況によっては検討に値します。家全体をゆるやかに暖める仕組みは、ヒートショック対策として非常に有効です。
今日からできる現実的なヒートショック対策
大規模な改修が難しい場合でも、今日から実践できる対策は数多くあります。
まず大切なのは、「夜間に家を極端に冷やさない」ことです。
エアコンを就寝中に弱運転で継続することで、早朝の室温低下を防げます。特に高断熱住宅では、少ないエネルギーで室温を維持できます。
入浴前には、脱衣室と浴室を事前に暖めておくことが重要です。
浴室暖房乾燥機がある場合は入浴の15~20分前に運転を開始します。設備がない場合でも、小型ヒーターを脱衣室に設置するだけで血圧変動リスクは大きく低減します。
トイレも盲点になりがちです。夜間や早朝に利用する空間だからこそ、壁付けヒーターや人感センサー付き暖房機を設置することで安全性が向上します。
入浴方法の見直しも効果的です。いきなり熱い湯に浸からず、かけ湯をして身体を慣らすこと。長湯を避けることも重要です。入浴前後に水分をとることで血液の粘度上昇を防ぐことも推奨されます。
さらに、浴室のドアを開けてリビングの暖気を取り込む、入浴前にシャワーで壁や床を温めるといった昔ながらの方法も有効です。小さな温度差の積み重ねが、安全性を高めます。
カーテンを厚手のものに変える、床にラグを敷く、隙間テープで冷気の侵入を防ぐといった簡易的な断熱強化も、一定の効果があります。特に築年数の古い住宅では、こうした対策でも体感温度は大きく改善します。
命を守る家づくりを
ヒートショックは、突然起きる事故ではありません。
温度差という「住環境」が引き起こす、予防可能なリスクです。
家は、家族を守る器であるべきです。デザインや価格も大切ですが、最優先すべきは安全性です。
断熱性能の低い家は、冬場に大きなリスクを抱えています。そしてそのリスクは、特にシニア世代にとって深刻です。
住まいの性能を見直すことは、快適性向上だけでなく、家族の命を守ることにつながります。建築のプロとして、私は「冬の温度差を放置しない家づくり」を強くお勧めします。
ヒートショックは防げます。その鍵を握っているのは、住まいの性能です。










