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2024.04.29

コラム

地震耐震

ようやく見直しが検討され始める「地震地域係数」

この度の能登半島地震にて、木造の住宅だけでなくコンクリート造の建物でも被害が出たことなどをふまえ、国土交通省は地域の地震活動に応じて建物の耐震強度を割り引く「地震地域係数」を、全国一律にすることも含め見直すことを検討していることが分かりました。
(引用:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240323/k10014400011000.html#

「地震地域係数」とは、大きな地震が来る確率が低いとされている地域で、建築物の耐震強度を低減させてもよい、という基準を数値化したもので、建物の「地震力」を計算する際に使う数値の一つです。

見直しが検討されている「地震地域係数」は1979 年に定められたものです。( 昭和 53 年建設省告示第 1321 号 )
現在まで約45年間、東北や九州での大規模地震による建築物の倒壊が見られてきた中で、もっと早く見直しがなされていなかったことは、残念でなりません。

下記では、「地震地域係数」とは何かをもう少し具体的にご紹介し、建物の耐震性に関する考え方にも触れていきたいと思います。

「地震地域係数」とは

現在の「地震地域係数」は地域によって地震の規模や発生の頻度が異なるという考え方をもとに、建物を建てる際の耐震設計に用いる地震の力を「割り引く」ことのできる係数で、45年前の1979年に定められました。

この地域係数は1.0、0.9、0.8、0.7の4種類あります。
地震の頻度が高い地域を1.0とし、それと比較して頻度の低い順に3地域に分けています。
図は、各地域ごとの地域係数です。

画像:株式会社耐震設計より(https://taishinsekkei.com/info/taishinhokyo-localkeisu/

この係数をどのように使うかというと、以下のように地震力の大きさを計算する際に使用します。

Q(地震力)=W(建物の重さ)×Z(地震地域係数)×Rt(振動特性係数)×Ai(地震層せん断力係数の高さ方向の分布)×Co(標準せん断力係数)

少しまとめると、

地震力Q=建物の重さW×地震地域係数Z×その他係数

ということになり、建物の耐震性がこの地震力Qより高くなるように構造計算をするというわけです。

しかし、この地震地域係数。最新の地震学に基づいた数値かというと、そうではありません。…
元になった数値は「地震地域係数」が定められた1979年よりもっと前の1952年(昭和27年)に告示された「河角マップ」が参考となったそう。
現在に至るまで70年以上の時が過ぎ、地震学も進歩してきた中、「地震地域係数」については見直しがなかったのです。
地震に対する安全性を確認するための基準の一つであり、他にも色んな検査項目や審査基準がある中での「係数の一つ」とはいえ、ずっと古い情報のまま変わっていなかったというのは、不安しかありません。

事実、記憶にも新しい熊本地震などが発生した場所の「地震地域係数」は0.9または0.8となっておりますし、能登半島地震で大きな被害を受けた輪島市、珠洲市、能登町、穴水町は係数が0.9となっています。
「地震の力を割り引いて計算しても良い」とされていたことが裏目に出た可能性もあります。
今回「地震地域係数」が見直されることは当然なことであり、遅すぎると言わずにはいられません…

地震地域係数を独自に「割り増し」している自治体も

疑問の残る古い根拠をもとに耐震性の「割り引き」をする口実になっている地震地域係数ですが、一方では独自に「割り増し」をしている自治体も存在します。

南海トラフ地震で大きな被害が想定されている静岡県です。

そもそも静岡県では昭和59年から、建築物の地震対策として、建築基準法で規定する地震地域係数(Z)の数値を1.2倍に割り増す独自の基準「静岡県地震地域係数(Zs)」を定め、建築物の耐震性向上を促してきました。

その後も日本全国で立て続けに大地震が発生していることから、静岡県で大きな被害が想定される南海トラフ巨大地震に備えるため、建築基準法が定める耐震強度の1.2倍を求める静岡県独自の基準を「義務化」しています。
これにより、静岡県全域において、平成29年10月1日以降に着手するすべての建築物では、地震地域係数Z=1.2として計算、建築されているといいます。

地震地域係数とは本来このように、「割り引く」ためのものでなく、独自基準によって「割り増す」ためのものであるべきなのではないでしょうか。

画像:楽待より。静岡県では独自の地震地域係数を義務化している

安全性を重視するなら地震の力を「割り引く」のはやめるべき

今現在、山形県の地震地域係数は「0.9」となっており、通常の地域よりも地震力を10%割り引いて計算して良いことになっています。
地震の頻度や規模が小さい可能性が高いため、ということですが、それを真に受けて良いのでしょうか。
前述の通り参考となる情報には不安な点が多くあり、山形県内にはいくつか大きな断層も存在します。

東北の日本海側や北海道の多くの地域ではZ=0.9、北海道のより北側の地域ではZ=0.8とされています。
「東北の日本海側や北海道では、地震力の計算時に垂直積雪量も加味するわけだから、トータルで考えれば割り引きの影響はそんなにないんじゃない?」
という意見も一部にあるようですが、それとこれとは別問題。
せっかく積雪荷重を加味しても、そこから1割引き、2割引きされてしまうのでは困ります

近年の地震地域係数に対する疑問の声の高まりを受けて、弊社では2023年より構造計算時の地震地域係数Zの取り扱いを改めております
具体的には、山形県の基準である「0.9」を使用せず、地震の力を割り引かない地震地域係数「1.0」を使用して計算することにしています

このZの数値だけで耐震性を見るわけではないですが、このような細かい「構造設計へのこだわり」が家全体の長期的な構造安定性につながっていくと信じています。
不安の芽は極力なくしていく努力をし、本当の意味で地震から身を守れる家を弊社では作り上げていきたいと思っています。

地震地域係数の見直し後は、最低基準を1.0とすべきでしょう。
そのうえで、地震発生の確率が高いとみられる地域や、住宅密集地域・津波想定区域などの建物倒壊時の避難の難しさが死傷者数増加に直結する地域では、そこから独自に割り増して1.1や1.2にしていくべきと考えます。

白田工務店では、断熱性や気密性・空調計画による住宅の暖かさや涼しさといった「日々実感できる良さ」だけでなく、「耐震性」「耐積雪性」などの「実感はできないけど生命や財産を守るのに重要な基本性能」を重視しています。
山形県で地震に強い家、雪に強い家を建てたいという方は、ぜひご相談ください!

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