言わずと知れた地震大国日本。近年は大きな地震が立て続けに起こっているように感じます。
そんな中、建築業界では耐震性や構造に関わる法律が改正される動きがでています。
日本の近代建築の歴史は地震との戦いの歴史です。
最近の30年を切り取っただけでも、阪神淡路大震災や東日本大震災、熊本地震、そして能登半島地震と、大きな地震災害が立て続けに発生しています。
後に述べるように、2025年度からは4号特例の見直しがなされ、建築物の構造・耐震性はこれまでより安全となります。
これによって地震による家の倒壊やそれによる被害も、少しずつではありますが減っていくと思われます。
『地震発生は、防ぎようのない「天災」です。しかし、建物倒壊は防ぐことのできる「人災」です。』
「構造塾」で有名な佐藤実さんのこの言葉を、建築実務者は深く心に刻み込む必要があります。
前述の通り、日本の近代住宅は地震との戦いを繰り返しながら、より強固に発展してきました。
この耐震性の追求を蔑ろにするのは、これまで犠牲になってきた方々への冒涜ですらあります。
今回は耐震性能についてと、耐震性を測るのに欠かせない「構造設計」についてお話ししていきます。
耐震等級とは?
耐震等級とは、住宅の地震に対する強さである耐震性を、1から3までの等級で示した指標のことです。「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づいて定められた「住宅性能表示制度」で示されており、数字が大きいほど耐震性が高くなります。
耐震等級のランクづけは、大地震の発生時に住宅の構造躯体が「損傷防止」「倒壊等防止」に対して、どの程度の強さを持っているかを表します。
耐震等級2及び3の認定を得るには、構造計算もしくは性能表示計算がされる必要があり、住宅性能評価機関という国に登録された第三者機関の審査が必要です。
今だと住宅性能評価を取得する方より、長期優良住宅の認定を受ける方の方が多いかもしれませんね。
長期優良住宅の認定においては耐震等級が3であることが必須条件ですので、自然と耐震性の高い住宅になります。
等級ごとの耐震性を簡単に示すと以下のようになります。
耐震等級1が 建築基準法レベルの耐震性。
耐震等級2が 等級1の1.25倍の耐震性。
耐震等級3が 等級1の1.5倍の耐震性。
これから新築を建てる方には耐震等級3とすることがお勧めです。
建築実務者の中には、いまだに「耐震等級2や3なんて意味がない」と考え、施主様から要望されない限りは最低限の耐震性で設計を進めるという方が大勢います。
「耐震等級3にしてください。住宅性能評価の取得か長期優良住宅の認定をお願いします。」とはっきり言うことをお勧めします。
近年、大きな地震が幾度も起こっていますが、「耐震等級3」の家の被害は無害または軽度に収まっている傾向が見られています。
以前アップしたブログ記事「能登半島地震を受けて・・・旧耐震、新耐震、現行耐震」でも耐震性に関する話を記載しておりますが、ぜひ「家族を守る家づくり」を積極的に進めていただきたいと、建築に携わる者として心から思います。
「耐震等級3相当」には注意した方がいい?!
ちなみに、耐震等級の表示に関する注意点として「耐震等級3相当」という言葉があります。
先述したように正式な耐震等級の認定には第三者機関の審査が必要です。しかし、「耐震等級3相当」と表示されている場合は、ハウスメーカーや工務店などの施工者が独自に計算したものとなるため、正確性や性能の保証はなく、地震保険などの割引適用もできません。
中には耐力壁の量を1.5倍に増やしただけで「耐震等級3相当」としている、設計者の誤認に基づく表示も見られるようですので、注意が必要です。耐力壁を1.5倍に増やしただけでは耐震性能は1.5倍にはなりません。
すべての「耐震等級3相当」が怪しいとは言えないですが、第三者機関の審査を経て正式に耐震等級が認められた住宅の方が安心といえます。
家の安全性は「構造計算」あってこそ!
「構造計算」とは、建築構造物を建てるにあたって建物自体の荷重などを計算し、地球の重力はもちろん、地震や台風などに耐えられるかどうかを、柱、梁、金物などの部材ひとつひとつについて計算することです。
それらの計算内容は膨大な量で、家一つに対し本1冊が作れるような多さです。
このように、建てる前に徹底的な計算と計画をすることで、本当に「安全」な家の設計図が出来上がるわけです。
細かい内容については勉強会でお伝えしていますので、気になる方はぜひお問い合わせくださいね!
2025年から変わる「4号特例」
ここまで「構造計算」が大事とお話ししました。
しかし、一般的な2階建ての住宅については、現在に至るまで法律的には構造計算は必須ではありません。より簡易的な構造検討の方法である、「壁量計算」「四分割法」「N値計算法」、それから仕様規定に基づく設計・施工をしていれば良しとされています。
この「3つの簡易計算と8つの仕様ルール」を守って建ててさえいればまだ良い方です。
一般的な2階建ての小規模(500㎡以下)住宅であれば、基準法上は「4号建築物」という分類に該当します。4号建築物は確認申請における構造関連審査が省略されることとなっており、それを呼称して「4号特例」と呼ばれているのです。
この「構造関連の審査が省略される」という特例を「構造の検討をしなくても良い」と曲解し、何の構造検討もせずに設計・施工している建築業者さんもいる、ということが大問題なのです。
これが「4号特例の弊害」と呼ばれ問題視されています。
2025年4月からはこの4号特例が見直されます。
具体的には、木造2階建て住宅や200㎡超の平屋については構造関連の審査省略制度の対象外とされる予定です。つまり、最低でも「3つの簡易計算」の計算図書を提出し、審査を受ける必要があるということになります。
注意点としては、「構造計算が義務化される」というわけではない、ということです。
あくまで、「簡易計算で良いから構造検討資料をちゃんと提出しなさい」というわけです。
ですが、せっかく構造検討資料を行政が目を通してチェックしてくれるのですから、どうせ資料を作成するのなら耐震性も向上させて耐震等級2や3の家づくりをした方が施主様も喜ぶに決まっています。
そんな考えでより耐震性の高い家づくりを志す工務店が増えることを願うばかりです。
構造最適化の勉強会!
当社での構造設計に関する取り組みもご紹介します。
先日は金内勝彦設計工房の金内様を講師にお呼びし、構造設計の最適化について勉強会を開催いただきました。
前置きですが、2025年度から始まる予定の4号特例見直しに向けて、弊社ではすでに「構造計算(許容応力度計算)による耐震等級3の家づくりの標準化」をおこなっております。
今回の勉強会では、構造計算にかける前段階の「意匠計画」、つまり「間取り」の組み方の段階から「構造」を意識することの重要性を、再確認するために催していただきました。
2階建ての住宅の意匠計画事例を元に、構造の安定性が確保されているかを確認していく方法を教示いただきました。
特に壁や柱の「直下率」の重要性を再確認。簡単に言えば、「平面上で2階の壁や柱のあるところには、1階にも壁や柱があった方が構造が安定するよ」ということ。
建物に掛かる荷重が無理なく最短経路で基礎まで伝っていくことは、住まいの長期的な安定性に非常に重要になってきます。
間取りやデザインは確かに大事で、日々の暮らしの中で「良さ」を実感しやすいため、重視しがちです。
一方で、構造の安定性・耐震性の高さは、日々の暮らしの中で「今日もしっかり守られてるな~」といった「良さ」を感じにくいものですので、違いが分かりづらいものです。
ですが、いざという時に住まいが命を守ってくれるかどうかは、構造の安定性・耐震性の高さにかかっています!
白田工務店では、お客様のご要望に寄り添いながらも、日本でこれまで起こってきた数々の大地震の経験をしっかりと活かし、長く安全に住まうことのできるお家を提案してまいります。